VS file5「<V>と<S>」麻生俊平著

有権者の判断が下った」そうでありますが・・・いや、残念でした。面白かったのに。

 麻生俊平氏は「ザンヤルマの剣士」でヒットしてから、ずっと富士見ファンタジアでは

「人を超えた力を『持ってしまった』者の悲喜劇」

 を書き続けています。特に、ザンヤルマのシリーズ終了後は「変身物」に拘っています。



 ただし―――

 その内容、書こうとしているものの気高さを思うに、やはり「ライトノベル」特に「富士見ファンタジア」の舞台で描くのは難しいのではないか。舞台が合っていないのではないかと思ってしまいます。同様の志を抱いている作者さんは他にもいると思うけど、富士見でシリーズとして生き残っているのは、その志と等分か、それ以上のライトタッチなコメディ要素や萌え要素にオブラートされたもの、のみと思われます。

 今回の「VS」は、前作シリーズ「ミュートスノート戦記」に比較して、刑事物の骨格を持つことで主人公が「謎に近づきやすく」=主人公の目で状況を見る読者が謎を追いやすくなっていました。また、キャラクターが増え、特にタイプの違う女性キャラが多数配置されていたのに「配慮」を感じました。

 しかし。
 VSの女性キャラは、全員が全員、隙が無さすぎです。いま最も人気が高いと思われるツンデレタイプなキャラの「ツン」時でおいてすら、主人公(を通してみる読者に)つっこんだり、支えたりする隙をかい間見せてくれたりするものです。
 でもVSの女性キャラは折り目正しすぎだったり、毒ありすぎたりですよ。お前のことだよコマンダー。<好きだけどね

 富士見の場合は、ブックカバーおよび挿絵のイラストレータの比重は大変大きいものですが、VSの内容に硝音あや氏の絵が「合っていた」かどうかは疑問です。絵のクオリティとか読者受けするかとか、ではなく、まずもって「線が華奢」。VSのあまりにも(ライトのベルとしては)骨太な内容に合っていたかというと首をひねらざるを得ません。

 用意している伏線、描こうとしている「人間の側面」、仕掛けから鑑み、いっそハヤカワJAあたりでやった方がふさわしく、かえってのびのび書けるのではないかと思えてならないです。