プロジェクトX 男のブッシュドノエル
それは今月の始めごろでありましたでしょうか。
今回の鍋ゲーム会において、誰かが「甘いもの食べたいね」と思ったわけですわ。で、「ブンケイさんの新作お菓子があるのね!」とか思った方がいる。ま。ここまではいいわ。わしもまあ、数ヶ月ぶりになんか焼くかなぁとは思った。
ここでD'zセンセイはウカツにも
当然ありますよ。それはもう素敵なブッシュ・ド・ノエルとかが出てくるに違いありません。
などと、のたまわれたわけですよええ。
ワタクシはあわてて
「あのう、ワタクシ、スコーンとマフィンしか焼いたことないんですが?もしー?」
と書いたのですが既に遅く。
「スポンジじゅわ〜、クリームうま〜」なブッシュドノエルを期待してます!!!
いや、それゼッタイおかしいて。そういうことは魔性のホモとかに期待すべきで、30過ぎたおっさんに期待することちゃうて!
しかし。
戦いを挑まれて、何もせずに白旗を揚げるのは悔しい。(そう考える俺もなんかオカシイ)
翌日、本屋にてブッシュドノエルの作り方の載っている本をとりあえず、買う。
2、3回読み下し、頭の中に作業イメージを作り段取りを組む。
・・・んー これは今までの実験とは作業難度が2段階ぐらい違う。メレンゲなんて立てたことないし、そもそも生地組成が全く異なる。できるのか?
まあ、やるともやらないとも言っていないから、やってみて無理そうならあきらめよう。
12/20。
新宿の東急ハンズに足りない材料と用具、輸送用の箱を買いだしに行く。その手の棚は、クリスマスケーキを手作りしてみましょうお嬢様!な感じで用意されているので苦労しない。っていうか人が多すぎる。
・・・今、この世で製菓材料なんか買ってるヤローは俺一人じゃないのか。しくしく。そんな気もする。
ちなみに、今回は試作のため材料を常に倍量を基準に購入する。
コーンスターチが見つからない。というか、コーンスターチとは何か?もわからない。
困った。
そこに、「ロールケーキ用のミックス粉」を発見。ちょうどいいってんでコレを買う。
12/21。
購入した材料を元に、実験試作を行う。
が、生地がうまくできない。途中で焦げるし、厚さが均一にならないし、巻こうとするとどうしても折れてしまう。
だめだ。あきらめよう。私はプロジェクトの中止を内心決定していた。
12/23。
母と電話で話す機会があった。
「ところでつかぬことを聞くけど、コーンスターチって知っとる?」
「ああ、知ってるよ」
聞けば、中華料理でとろみをつけるのに片栗粉を使うように、洋食ではとろみをつけるのに「コーンスターチ」を使うのだという。スーパーでは粉類の売っているところにある、という。道理で製菓材料の棚に無いわけだ。購入してくる。
12/24。
風邪引く。
12/26。
夜。並んだ材料を目の前に、一度、試すだけ試してみようと思う。今度は「ロールケーキ粉」などというものは使わず、本のレシピを守って一つ一つ忠実に実行。
約一時間後。
「・・・この生地、巻けるぞ」
あわててシロップとフィリングの製作に入る。試作一号と二号では、シロップもフィリングも製作して無駄になっていた。マリアージュフレールの紅茶ジャム(実に美味)ひと瓶無駄になったが、リスクを考えていた私はもうひと瓶購入していたのである。
シロップを塗りこみ、フィリングを巻き込む。
・・・巻ける。巻けるぞ!
腹は決まった。塗ろう。クリームを。
クリームをホイップするのも初めてである。特に、一号・二号はクリームの段階以前で廃棄したため、完全に始めての作業になる。
どのくらいホイップするとどのくらいの固さになるか、その加減がわからない。本の記述を元に、少しずつ試す。そして。
塗る。塗る。塗る。外側の「樹木風デコレーション」に凝ると、きっと失敗すると思われたので、ゴムベラで軽く筋っぽくつけて終わらせる。
クリームはほんのり紅茶の香りがした。
12/27
製作したブッシュドノエル試作型を持ち込む。
期待していた「驚き」はそこにはなかった。
「いやあ、ああ書くとブンケイさんならきっと作ってくるだろうなあと」
見透かされてるよママン。
完成したブッシュドノエルは、期待通り紅茶の香るしっとりとして、かつ、だだ甘くない、それなりのブツに仕上がっていた。
プロジェクトは成功した。なのに何故だろう。この心をよぎる敗北感は!!
「今度はさあ、苺が季節だからそれでやってもらってー」
おい!
でもそれを聞きながら、じゃあフィリングには苺をコンポートにして、リキュールはストロベリーリキュールで――とか思い浮かぶ自分がなんか許せん。