新感線☆RS「メタル マクベス」@青山劇場
うむ、面白かった!
一応、ネタバレを考慮して、行をあけておくのである。
つまり、ランダムスター=マクベスは、天魔王にも安倍邪空にも芥蛮嶽にもなれなかった男なのである。
天魔王には、付き従う偉大なる王・信長が天下統一目前で殺されてしまう、という「喪失」があった。
邪空には、出門というどうしても敵わぬ「ライバル」がいた。
蛮嶽には、晴明蟲の「力」、そして一族の「悲願」があった。
しかし、ランダムスターにはそのどれも、ない、のである。だからこそ迷い、だからこそ妻に背を押され、だからこそ罪に脅え自滅していく。
実に哀れな、身の丈に合わない悪事をしてしまった男の自滅劇。これを描くのが、今まで勧善懲悪(みたいなもん)を描いてきた新感線、というところが面白い。
いつもなら幕が開いて30分もしないうちに登場している「倒すべき悪!」。この芝居でランダムスターが一応その資格を得たのは、2幕も進んでマクダフの妻子を殺した時点でやっと、というところだろう。そこからの流れは、確かに「いつもの新感線っぽい」と言えよう。
だが、あくまで「っぽい」ものでしかない。
反乱軍側の盛り上がりに対し、待ち受けるランダムスター側の物悲しいほど頼りない状態よ。
それは、新感線の芝居を見続けているものならば、更に良くわかる。
いつも敵は味方よりも多数で。強そうで。自信にあふれ、ヒーローをぎりぎりのつばぜり合いまで追い込んでみせる。
ああしかし。彼は少数で、弱そうで、予言にすがらねばならぬほど自信がなく。哀れを誘いすらする。
かくして観客は、「天魔王になれなかったマクベス」の悲劇を、観るのだ。
というわけで、僕自身はかなり満足している。
特に、マクベス王が亡霊に悩まされる宴のシーンのアレンジは素晴らしいと思った。宴の意味と、宴をぶち壊しにしてしまう意味が、非常にわかりやすくなっていた。