SINKANSEN☆RX「SHIROH」@帝国劇場

 田中さん、素直に脱帽です! すげー面白かった!!



 PSPを入手したその足で、帝国劇場へ。今度は迷わなかった。僕はちょっと不安だった。島原の乱を舞台にした以上、そこには悲劇が待っている。書くのが中島かずきなら、やわいことにはなるまい。そんな舞台に、僕の見たいものはあるのか?

 芝居が盛り上がり、結末に向かうベクトルが確立し舞台に引き込まれるほどに、その不安は高まっていく。


 しかし!

 最後はしっかり、悲しさ、やるせなさを残しながら、カタルシスをももちながら、物語は幕を閉じた。

 面白い、実に。
 ここで、この間見たPROJECT Say−龍 第一回公演「無稽・本能寺」を比較してしまうのはズルイかもしれない。
 だがあえて比べよう。
 どちらも、良い人側が悪い人側の企みに転がされ大勢の人が死んでいく点は同じだ。
 しかし、最後に残る気分の晴れ方、「筋の通し方」にまだまだ雲泥の差がある。それは金の掛けかたとか、役者の力量とかももちろんあるが、やはり全体の構成力、人物描写の深さがまだまだ及ばないということに尽きる。

 松平伊豆守、彼をただの「悪いだけの人」にしておかないところ。そこがすごい。演ずるは江守徹。ただの酒飲みオヤジじゃなかったんだ!



 他にも色々、良いんですよ。
 高橋由美子がね。かわいーんですよ。頭の良い、仕切ることの出来る委員長タイプの子が好きな男のために必死になっちゃう感じを熱演!
 上川隆也は運命に流される、マジメな、思いやりもある、腕も立つ、でも弱いところもちゃんとある「ヒト」四郎を好演!
 中川晃教のおっそろしく透明な歌声は、島原の人々と観客丸ごとに生きる希望と、戦う勇気と、妄信と狂気を与え地獄を作り出す!
 



 なお、新感線なので、笑いどころもちゃーんとありますよ。
 粟根まことはこんかいちょっと控えめだったけど、池田成志はステキ。鞭を振りかざし農民を苦しめる小役人を演じさせたら右に出るものなし!
 橋本じゅんは自分の与えられた出番で最大限に観客を攻めてきますナ! まあ、僕も彼のシルエットを確認した段階で笑う体勢を自動的に体がセットするので、あまり公平な判断にならんのですが。



 S席1万2千円の安くない舞台ですが、満足満足、実に満足でした。パンフも戯曲も買ったし、ライブ版CDの予約注文もしてしまいましたよわははは。




































 観た人のための追記。

 中島かずきの「原作戯曲」では、池田成志粟根まこともちゃんと最後に殺されているし、橋本じゅんももうちょいちゃんと語ってから、きちんと倒されている。

 ここらへんは、中島かずきの「筋の通し方」と見る。
 彼の戯曲では確かに善人が悪党の犠牲になるが、悪いだけのヤツもやはり生き残れない。報いを受けるのである。ただ、彼自身があとがきで書くように、ある意味「理が勝ちすぎる」ところでもあるのだ。
 殉教に向けて転がり落ちていく彼らの前に、もはや小悪党たちの出る幕は無い。(例えそれが、悪の報いを受けるシーンであっても)その存在を観客にも忘れられるのが報いと言えば言えるだろう。

 最後に生き残るは大悪党、伊豆守。自分が悪党であることを知り、隠そうともせず、誇ろうともせず。「仕事」の一言が重い。二人の四郎と3万7千人の死を背負う。背負えるぐらいの大悪党でなければ、幕が閉じる時に立っていることは許されないのだ。